回顧録no.1 【‥温泉町と祖母のこと 1/4】
幼いころの記憶をたどり 心に残る人との出会いや別れなどから
生きてきたことの幸せや苦しさ 辛さ そして今 生きていることへの想い
積み重ねている時間の中で ふと気づかされる 郷愁へのあこがれ
思いつくままに そして かすかな記憶も頼りに 記していきます
あなたの 心に 少しでも残るものがあれば うれしいのですが‥‥
「‥温泉町と祖母のこと 1/4」
立春に近い季節 高い山々に囲まれて佇む故郷は茶褐色模様に沈み
時折り吹く風が 頑固なまでに春の訪れを拒んでいるような日が続き
親や そのまた親たちが植えてきた 杉林だらけの味気ない色彩も
寒々しい空気を運んでいた
家の裏に立っていた古い紅梅は 急ぎ足で春を告げようとばかりに
蕾をふくらませつつあったが わずかばかりの赤色は少しの空曇りでたちまち
色褪せて目立たなくなった
光の射す時間は短く すぐに冷気を含んだ夕暮れが訪れ
薄い板戸と障子で囲まれただけの部屋は寒さを増し
母が布団に入れてくれた湯たんぽも瞬く間に冷めて
幾度となく目覚めては暗さの中で震えていた記憶が 今も残る
そんな凍えるような朝でも 祖母は誰より早く起きて
仏壇の祖父に言葉をかけていた (続く)