回顧録no.14 「U君へ グラブとともに・・・」
「‥U君へ グラブとともに」
会社同期のU君は 物静かな性格で 自己主張することは少なく
口より先に体を動かしているような 青年だった
野球が大好きで 時間があると壁を相手に ひとりでキャッチボ-ルをしていた
40を前に 肝炎を発症した
50過ぎて 息子さんの肝臓を移植した
最愛の娘さんを病で亡くした まだ20を過ぎたばかりだった
60を前にして リンパの癌を発症した
病と真正面から向き合い 家族のために 仕事も頑張り 最後の最後まで
闘い続けて 60過ぎの春 この世を去った
彼の棺の中に 使い古しのグラブが添えられてあった
見覚えのあるグラブは U君がはじめての給料で買ったものだった
何十年も 彼と一緒に野球を楽しんだ仲間だったから
彼にお供して 天に昇って行った
そして わたしの手元にも 彼の思い出が残っている
県外転勤が決まった時 記念にと プレゼントしてくれた小さな髭剃り
あれから 30数年 今も元気に動いてくれる
その音は 頑張れという 彼の声援のような気がする
U君の人生が 幸せだったかどうかは 誰にもわからないが
彼は 限られた時間の中を 野球少年のように 一生懸命 駆け抜けていった
今 U君は 娘さんを相手に
愛用のグラブで キャッチボ-ルをしている
かも 知れない・・・
【届いているかい? 娘さんの投げたボ-ルは】