回顧録 no.17「…直球勝負の S先輩」
「…直球勝負の S先輩」
野球でいえば 直球だけで 勝負する人だった
自論は揺るがず 味方でも 敵でも 主張を貫いた
白を黒にも 黒を白にも しなかった
と いうより できなかった
上司でも お客様でも お世辞は言わなかった
と いうより 言えなかった
だから 周りの多くは S先輩から遠のき 上司は 煙たがった
だが S先輩は去る者も 上司も 全く気にすることもなく
媚びてまで 気に入られたい そんなことはさらさら だったと思う
なあなあ や まあまあ といった 馴れ合い的な 社会風潮や
ありきたりの上位下達を 徹底して拒み続ける 人生だった
しかし 若いリ-ダ-には 自ら出向いてでも こうあるべしと 教えた
S先輩は 後に続く世代に 委ねようと 決意していたに違いない
OBになっても その熱意は変わらなかったが 70をすぎて
少し調子が悪いと 精密検査に入り 余命わずかと 診断された
お見舞いの電話口 かすれた細い声で
懸案だったことについて 「頼んでおく」 と ひとこと
間もなくして S先輩は 真っ直ぐな人生を 閉じた
亡くなる前の夏に撮った S先輩と一緒の写真がある
屈託なく微笑み 真っ直ぐ前を見つめる 凛とした姿は
記憶にある 青年の頃の 先輩そのもので
写真にふれたら 「おい!」 と 言われた気がした
あの電話から5ヶ月後に 約束を果たした
身をもって 曲げないことを 教えてくれた
S先輩の生きざまが とても うらやましく
思えてならない この頃
【先輩! 今も真っ直ぐですか?】