やす君のひとり言

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~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.32 「‥地域と生きた S先輩」

   「‥地域と生きた S先輩」

 

            「 挨拶に行くなら 雨や雪など の 荒れた日が いいと思う 

       そして なるべく 山間部から 行こう  」

 

             地方選挙に 出ることになった S先輩が 発した言葉

    挨拶回りに 町内全域を回らなければならないが 広いうえに

    その町は 山々に挟まれ 標高の高い 地区に 点々と 家が散在していた

    12月には雪が降り 寒さで 至る所が凍りつき 誰もが 通るのを避ける

    そんな 初冬から翌春にかけての 活動は はじめての経験だった

 

    S先輩の言葉を信じて みんなに伝えると 案の定 批判の 声

    それでも 限られた時間の中 行くしかない と

    何とか説得して あえて 荒天の時こそ 奥地に行く ル-トを組み込んだ

 

    そして 報告内容は S先輩の言葉どおりで 在宅が多く 感謝の言葉や

    温かいお茶さえ いただいたと 誰もが納得した

 

    そうした努力もあり S先輩は 高位で議員の席を 得て

    それから 3期務め もっとやりたいことがあるから  と 勇退した 

    地元が頑張れるように 特産品の製造販売を 地域の仲間と 一緒に始め 

    その評判は高く 製造が追いつかない と うれしい悲鳴を上げていた

 

 

    ある冬の夜 反省会が 近くの公民館であり 遅くに歩いて帰る 途中

    何らかの 拍子に 用水路に落ち そのまま 帰らぬ人となった

    澄み切った空に 星のきれいな夜だった という

 

    とても寒い夜だったこと 少し飲んでいたこと 血圧が高かったこと

    などが災いしたと 後で 奥様から聞いた

 

    木訥な人で 人前では あまり しゃべることも 笑うことも しなかった  

    自分の主張は 曲げなかったが 頑固ではなく  

    見えないけれども いつも 思いやりや 優しさを 体中に 携えた人だった

    

     田んぼのそばの 社宅あとの古い一軒家が 事務所だった

     寒さと静寂さと 夕闇の中で 居ついた野良猫と 仕事をしていると

     「いるかい‥」と 戸を開けて

     「よかったら‥」と おでんを 差し入れ

     「じゃあ‥」と 多くを語らずに 帰っていく

    懐中電灯の明かりが 砂利道から 少しずつ遠のいていき 

    疲れたような 丸い後ろ姿が 夕闇に溶け込んで 見えなくなった

 

              あれから 25年 

    あの特産物は 名実ともに 町を代表する 商品となった

    そして

    60代後半で逝った 最大の貢献者は 今

    事務所に入ったら すぐ横の壁で 申し訳なさそうに 

    笑っている

 

 

   

    

   【 S先輩が こよなく愛した ふるさとに似た 冬光景 】     

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