やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.41 「‥夢の風景 ~み空色のバラ」

 

 「‥夢の風景 ~み空色のバラ~」

 

  小高い山から なだらかな曲線を描く 南向きの斜面があった

  晴れた秋の昼下がり 澄み切った太陽が 柔らかに斜面を照らしている 

   

  水平に造られた 砂利道を 一台の車が 埃を立てて 走ってくる

  ボンネットの長い 古めかしいトラックは 悪態をついているかのような音を

  響かせて 通り過ぎた

   

  トラックの音が やさしくなったところには 家々が 点在しており

  どの家も よく似ていた

  藁ぶきの 平屋で 四方を生垣が囲んでおり 表札は ない

  違いがあるとすれば 家を彩る花々だろうか

  コスモスが揺れている家 百日草が占領している家 野菊が玄関脇を飾る家

  そして 一軒だけは 秋らしく 冷やかにバラたちが 咲き誇っている

   

  トラックは そのバラの家の前で 止まった

  降りてきたのは 背の低い 小太りの男で 色褪せた作業服を纏っている

  破れかけの作業帽を 深々と被った その男は 表情も見せずに 

  トラックの助手席から 荷物を取り出した 

  

       それは バラの花束で  

  光に映える その色は 明るく澄んでおり  

  秋の青空のような み空色だった

  

  男は そのバラを 無造作に 手に下げると 声もかけずに 家に入っていく

  「‥‥」  

  物音はなく こもれる陽射しの中で 木の葉が揺れて 散り 

  やがて 男が出てくる 

  そして 振り返ることもなく トラックに乗り込むと 走り去っていった

  風の中に埃が舞い上がり 静寂さが あとに続く

 

  男の去った家に 言葉をかけるが 返事はない

  思い切って ガラス戸の玄関を引くと 音もなく開いた

  なじんでいるかのように 体は 勝手に進んでいく 

  窓際にベッドが置かれた その部屋には 小さな仏壇があり 

  そこに み空色のバラが飾られていた

 

  線香の火と 香りの残る 仏壇の前に 置かれた写真

  数年前に逝った 妻が 微笑む

 

  開け放たれた縁側から 見える山々の風景にも 微かに見覚えがあった

  

       真正面に居座り 輝きを誇る 銀杏の黄金色  

  尾根に並んで 散り葉を魅せる ブナの木々 

  敷き詰めたように 赤黄が彩る 紅葉たち

    そして 庭に咲く バラたちの 色と香り

  

       ふたりは そうした美しさや やさしさに ずっと 癒されてきた 

  ‥‥確かな記憶が蘇ってくる

  

  銀杏の大木が 語りかける

  「どうだい? 街のひとり暮らしは」

  「命日にお参りとは えらいねぇ」

  「だけど 奥さん いつも寂しそうだよ」

 

  そうか 今日は 妻の命日なのだ 

  そして ここは わたしの家なのだ 

  それから ‥‥ 

  トラックの男は わたしだったのだ と 気づく

 

 

  過ぎてゆく日々の中 晴れの夕暮れ時に見た 秋の夢  

  

 

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