やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.45 「‥夢の風景 ~深山の寒つつじ 3/4」

 「‥夢の風景 ~深山の寒つつじ 3/4」

 

   わずかに水が流れる 小さな川には 寒さに震えた 氷が張り

   Hさんは 氷を割りながら 上流へと 進んでいく

   雪と氷で 埋もれた川は まるで横たわる龍のように 冷たい表情を 見せ

   ピッケルを道案内に よろめきながらも 彼は 確実に 空と天に近づいていた

 

           不思議な空間だった

   

   這い上がるかのような 急坂が 落ち着いた 小さな水溜りがある場所から 

   横へ反れ 幾重にも絡まる雑木の枝葉を 潜り抜けていった その先

   

   そこには‥

   外からは想像だにできない 草地が 広がっており 

   その緑は 冬を思わせないほど 鮮やかに輝き放ち 

   その上には 山ツツジの枝葉が まるで 雪や風から守ってあげている

   かのように 頭上高く覆っていた

 

   「ここも 好きなんだ‥」

   ゆっくりと 草の上に腰を落とし 寝転んで 空を見上げる

   並んで 青空に目をやると  

   残り葉を通して 鮮烈な 冷たい 冬の陽射しが Hさんの顔の上を 行き来し

   静かに 目をつむる その頬を 涙が伝っていた

   「‥‥」

   彼は 最後の別れを 告げていたのだ と 思う

 

   「あと 少しだ‥  咲いているといいがな」

 

   自分に言い聞かせるかのように 言葉の最後に 少しだけ 力を込めた

   そして さらに 山つつじの その奥へと 分け入っていく

   彼が通る そこだけ薄緑の草が生えて 道案内をしているかのようで

   その草の道は 少しずつ薄くなり やがて 袋小路のような場所に 行き着いた

 

   その一角に 少し明るく 風が吹いてくる 小さな空間があった

   人ひとりが やっと通れそうな 狭い岩の割れ目が 奥まで続いている 

   Hさんは 黙って そこを指さした

 

   僕は まだ見ぬ世界に 地上の楽園を予想した

   赤や黄など あふれんばかりの 豊かな色彩を 想い描きながら 

   早足で その空間に足を踏み入れた               (続く) 

 

   

  

 

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