やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.46 「‥夢の風景  深山の寒つつじ 4/4 」

「‥夢の風景 ~深山の寒つつじ 4/4 」

 

  岩の割れ目には 氷柱が下がり ひときわ寒さを感じさせたが

  まだ見ぬ世界に あこがれる思いの 強さと 

  後と前の かすかな光が 足運びを手助けしてくれる   

   

  そして その先には 

  柔らかな明るさと 匂いのする空洞が続く

  それは 強い風によってか 木々が倒れて空間をつくり その上に

  長年にわたって 幾重もの自然が積み重なってできたもの のようで

  倒れた木々は 生き続けており わずかに 青空が覗いてくる 

 

  「そこだ‥」

  薄い光が射す 褐色の世界を Hさんが指さした

  僕は 描いた夢を めざして 小走りに 足を踏み出す

  そこに

  見た世界は 細い木々が 立ちのぼりながら

  迷路のように四方を取り巻いて 絡み合う 薄茶色の樹木の光景

  縦横無尽に走り回る 枝たちは まるで 何者も寄せ付けない

  かの ような冷たい姿をさらし 心躍る 美しい世界では なかった

 

  「どうした?」

  笑いながら Hさんは

  「よく 上を見ろ」と 言う

  じっと目を凝らして 見上げる  

  すると 

  点々と 輝くものがあり 太陽の光を浴びると 青空に映る それが

  真紅のつつじだった

  いくつもの 赤色が 鮮やかに 冬の情景を醸し出し  

  神秘さと 静寂さが 交差する ここだけの世界だった

  「晴れた日でなければ、美しく見えないんだ」

  Hさんが誇らしげに言う

  だから どうしても 今日でなければならなかったのだ

  

  僕たちは それから しばらくの間 陽だまりの中で 

  青空と 寒つつじを 見上げていた 

  少しづつ 光が西に動き 花見の幕も 下りようとするころ

 

  「おまえに頼みがある 

   いつでもいい 俺をここに 撒いてくれ‥」

 

  Hさんがつぶやき  僕は 黙ってうなずく

 

  それから 帰る道すがら 二人は しゃべることはなく

  別れる時に 

  「頼んだぞ‥」

  それだけ言うと 右手を軽く上げて 左右に振り 

  別れを告げる テールランプが 少しづつ 闇の中へ 消えていった

 

  そして あの日から 5ヶ月過ぎて 彼は 悠然と旅立ち 

  2年後の冬 あの日に似た 晴れの日に 僕は 約束を果たした

  まるで Hさんを迎えるかのように 寒ツツジは 鮮烈な色を 放っており 

  冬枯れの下 柔らかい風に抱かれながら Hさんは 土に還った

 

  あれから 数十年 今 あの地まで 行く 体力は失せたが 

  毎年訪れる この季節には 必ず Hさんとの記憶を 蘇らせる

  真紅の寒つつじは 今も青空に向かって 輝いているだろうか 

  ‥‥‥

       僕は 少しずつ Hさんに近づいていく

                             (終り)

 

 

  

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