やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.50 「‥夢の風景  ~赤いコートのMさん 2/3」

 

「~赤いコートのMさん 2/3」

 

  秋のうちにきれいに刈られた 広い高原は 

  ちょうど 真ん中あたりに 小屋があり 春から秋にかけては

  牛舎として使われていたが 春浅いその時期は まだ 空家で

  種々雑多の農具が 詰め込まれていた

 

  その小屋の入口に 担任の先生が腰を下ろし 囲むように みんなが座る 

  一人ずつ 小学校の思い出や 将来の夢などを 語り合い 

  僕は とにかく 街で働きたい 外に出たい とだけ しゃべった記憶がある

  その頃 村に入る情報は 限られていたが 僕には 理髪屋のタカさん  という

  街のことなら 何でも知っている 友達がいた

  街の着飾った華やかさを聞く時 もう一人の僕は 街で輝いていたのだ

 

  Mさんの 番が来た

  静かに立ち上がると ゆっくりと しっかりした口調で 

  「看護婦さんになります」‥

  それだけしゃべると また静かに 座り

  先生は 

  「夢 かなえてね」

  と 優しい声で 笑顔と励ましを 贈った

  

  Mさんのお母さんは 体が弱く 入退院を繰り返しており

  家事の多くは Mさんが やっていたのだと 思う

  多くが 手作業だった時代 村では 子供も貴重な 働き手だったから

  Mさんが家事をしていることは 不思議ではなかったが それでも

  あかぎれした手 や 梳いていない髪 昨日と同じ服 など

  僕たち以上に Mさんは働いていたのだ

 

  昼食時間 友達の呼ぶ声を 聞き流し 

  僕は 無意識に Mさんを探した 

  小屋から 少し離れた なだらかな斜面に立つ 大きな櫟の木の下   

  幹に背中を預けて ひとり 視線をまっすぐ 太陽と未来に向けていた

 

  黙って 隣に立った

  一瞬 驚いた顔をしたが 「フッ‥」と少しだけ 微笑み 歓迎するような

  しぐさを見せた

  その頃 同級生の男女が 二人きりになる 時間や機会など なかった し

  僕も その時が初めてだったような 気がする

  それでも なぜか そこに座る と いう想いが強く  

  いつの間にか Mさんの横で 足を伸ばしていた

  

  友達の笑い声や視線を 浴びながら 黙って弁当箱を開いた

  案の定 そこには おいなりさんだけ ぎゅうぎゅうに詰められていた

  母に 「おいなりさん」と 言っていたから 正直に 入れてくれていた

        と 言うより 他には 入れるものがなかったのだろう

 

  Mさんの 弁当箱には 巻き寿司が いっぱいだった

  「自分で作ったの‥」

  聞く前に つぶやいた

                                (続く)

 

 

   

    

 

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