やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.55  「‥夢の風景 ~乗れない自転車  1/2 」

 

 「~乗れない自転車 1/2 」

 

   春 小学校の 小さな校庭の隅に 子供用の自転車が 置かれていた

   当時 自転車を持っている 友達は少なく

   持っている自転車も 大人のお下がりの サドルに座れない 大きなもので  

   だから 乗れる友達も限られていた

   

   真新しい 青色の自転車は 

   桜の木の下で 花吹雪を浴びながら 僕たちに鼓舞するかのように 光っている

 

   校庭のすぐ上に 担任の先生の 宿舎があり 一人っ子がいた

   同級生だった N君は 勉強ができて 大きい瞳を持つ クラスの人気者で

   近くの河原 みんなで撮った写真 

   真ん中で笑う 彼を見て 今も そう思う

 

   体が弱い N君は ときどき 学校を休み 体育のときは 見学が多く

   あの頃の 教室には 暖房がなかったから 

           寒くなると いっぱい厚着をして それでも よく風邪をひいていた

   教室の 僕の前で 背中を丸めて 座っている N君は 

   なぜか いつも寂しそうに 見えていた

 

   その自転車は N君のもの

   日曜日 母と親せきの家に行った時 学校に 遊びにいった

   校庭の傍らで 自転車が 動いては 転び 転んでは 動いている

   黄色いセーターの N君が ひとりで必死に 頑張っていた

 

   僕は 声をかけて近づく あの人懐っこい笑顔が 迎えて 

   「体が強くなるようにって お母さんが買ってくれたんだ‥」

   「後ろを持つよ‥」

   N君が乗って 僕は後ろから支えて それからも 時間をみては 

   練習に付き合い しばらくして 青色の自転車が 校庭を 

   元気よく グルグルと 回る光景を 見るようになった

 

   そして 夏になる頃には

   N君は 体が少し強くなり いつの間にか 丸い背中も消えていた

 

                              (続く)

 

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