やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.71 「‥夢の風景 ~お正月の頃」

 

「~お正月の頃」

 

  幾つもの年を重ね 生きてきた長さで 物わかりが よくなり

  何もかもが わかったような 都合のいい 心もちに なることが 増えてきた

  そして 楽しかったことや 嬉しかったことだけを 記録として 蓄積させ

  辛かったことや 苦しかったことは 記憶から消し去って しまおうとする

  それでも 本当に辛い思い出は 夢の中でも 目覚めていても 

  鮮明に 蘇ってくる

   

  この時期 決まって思い出すのは 

  こども時代の お正月の頃の こと 

  浮かんで来る その出来事は 小さな棘のように 色褪せることなく 

  僕の 胸を チクチクさせる  空は 青いのに

  

  慣れない土地で 汗や泥にまみれて 働き続けていた 父

  わずかの田畑と 父の出稼ぎで やりくりしていた 母

  動くこともままならず 少しづつ弱りつつあった 祖母

  そして 厳しい寒さ 雪に覆われた 冬景色の中で 迎える 新しい年

  苦しい生活の中で 親は 年の初めを どのような思いで 迎えていたのだろうか

  

  味噌汁の中に お餅と 野菜が 入っている お雑煮

  山や畑の野菜を 多めに盛り付けた おせち

  それが お正月の全てで 田舎では 普通だと 思っていた

  「お年玉」 という言葉は 本で知ったが 親から もらった記憶は ない

  友達から 楽しい お正月の話を聞いて 家は貧しいのだと 理解し

  知れば 知るほど 惨めな気持になっていった あの頃 

 

  だが 家庭をつくり 子を育て 独りになり 過ぎた時を 静かに 顧みると

  あの時の 父や母の 吐息が 聞こえてくる 

  それは  

  「新しい年は 来ない方がいい‥」 吐息にも 聞こえ

  「精一杯のお正月を 迎えよう‥」 吐息にも 聞こえ

  苦しさの中で 必死に 家族を 守り続け 言葉に出すことなく

  全てを 吐息に変えている

     丸めて ひそかな 父母の背中に 手を合わせる 自分がいる  

   

  幾つもの家族に 幾つもの物語が 創られ 時は 刻みこまれていく

  どのような 家族の物語として 受け継ぎ 引き継いでいくのか

  家族の有様は 親と子が つながっている想いの 強さ そして 暖かさ

  希望や勇気をもらい つなげてきた 父母の背中  

  父は 黙して語らずを貫き 70を過ぎて 彼岸へ渡り

  母は 新しい年を病床で迎え やがて 96になる   

  活きのいい声は 影をひそめたが 親子は つながっている‥

 

 

      

      

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