回顧録no.10 「‥ひょうひょうと生きた父のこと 2/4」
「‥ひょうひょうと生きた父のこと 2/4」
裏表のない父は 地域の中では とても評判が良かった
父に相談すると いつもニコニコ顔で 「それがいい」と返す
違ったことを言っても 「それもいい」と返す
何回言っても いつも「それもいい」という返事しか返ってこない
当てになるようで ならないのだけれど なぜか最後は 納得してしまうような
そんな やさしく温かい父とのやりとりがとても楽しかったと 人づてに聞いた
聞いてあげるだけで 相手の気持ちを収めて 包み込んであげるような
ゆっくりした空気が 父の周りには漂っていた
「寒い時期の出稼ぎは疲れる」と言って 数年で辞めたが 本当は 都会の雑然さが
合わなかったのだと思う
北九州の大きな工場の守衛室勤務を 紹介されたこともあったらしいが
親を置いて行けないから と 断った
現金収入を得るために 村にある建設会社に出始めた
知識も技術もない父にとって 若い社員に使われるだけの肉体労働が
どれほどのものだったのか
暑い日 雨の日 雪の中 規則正しく 弁当を下げて出ていく父
そうして 私たちを育ててくれた
(続く)