「‥‥ カレーうどんと T君一家のこと 3/3」
その後 転勤などで疎遠になったが
あの雪の年から40数年が経った 秋
急に T君一家に逢いたくて 車を走らせた
記憶だけを頼りに 何度も道に迷いながら 辿り着いた先に 見覚えのある風景が
あらわれた
だが あれほど美しく 整然としていた 記憶の田畑は
人の手が遠のいていることを 見せつけるかのように 荒れ放題で
我が物顔に生い茂る ススキなどが 音を立てながら 風になびき
丘の上のお墓たちは 寂しそうに 立ちつくしている
数軒あった家は 空家になっており T君の家も 雨戸が閉じられ
庭一面には 掃く人もない 落ち葉が 重なり
郵便受けには 封がしてあって 玄関に 開け閉めの形跡はなかった
倉庫には 錆びた 古い耕運機が 無造作に横たわっており
耳には 水の流れと 時おり響く 鳥の声 だけが入ってくる
あの時に 見た風景を ひとつひとつ 繋ぎあわせて たどってみても
過ぎた長さが 邪魔をして 吹く風とともに たいせつな
もうひとつのふるさとや そこで積み上げたやさしさが 少しづつ消えていく
40年という歳月が 静かに 目の前に横たわっている
「T君 そしてみなさん 元気でしょうか‥‥
どうか 元気でありますように‥‥」
(終)
【‥やがて 自然に帰っていく ふるさとよ】