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~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.47 「‥夢の風景  ~理髪店のタカさん 1/2」 

 

「‥夢の風景 ~理髪店のタカさん 1/2」

 

 小学校3年生の頃だったと 思う 

 子供の足で1時間ほどかかる 高原まで

 遠足か スケッチ大会か 秋晴れの日に クラス全員で出かけた

 と言っても それが同級生全員だったが

 

 途中 村に1軒だけの 理髪店の前を通る 

 カラカラと 赤白青のサインポールが回り続ける 高台平屋のおじさんは 

 村一番の有名人だった

 

 戦時中 軍隊から逃げ出した  街で暴れていた  いっぱいお金を持っている

 ウソかホントか わからない話が 村中を駆け廻っていたが

 小柄で 愛嬌のある 丸坊主頭のおじさんを 僕たちは 勝手に 名前から

 「タカさん」と呼んで 帰りの寄り道一号店に指定していた

 

 当時 人気のあった少年漫画を買える子は少なく 小学校傍の 雑貨屋さんで

 怒られること覚悟の立ち読みか 友達の読み飽きた本を借りるか だったが

 タカさんが お客さん用に 買うようになって 

 理髪店の中に いつもいっぱい 並んで輝いていた

 それから 寄り道一号店となり 奥の板張りは 僕たちの専用になった

 

 そして‥

 運悪く その日は 新しい漫画本が お店に並んだ日だった

 さらに 運悪く タカさんが 入口の中から 僕を手招きしている

 「赤胴鈴の助」の 誘惑に勝てなかった僕は 列から 少しづつ離れ

 脱兎のごとく 寄り道一号店に駆け込んだ

 

 僕は 漫画のあらすじを 自慢げに話すとき 

 いつも ニコニコしながら 聞いてくれる タカさんが 大好きだった

 タカさんも そのことを知っていて つい手招きしたのだろう

 

 どれほどか 漫画の世界に浸っていると タカさんが 大声で 言った

 「先生が来るよ!」

 担任の 若い女先生は 

 入口から 駆け込むと 漫画本を開いている 僕を発見し

 「何やってるの!!」

 と 言うのと 同時に 手が飛んでくるのを覚えた

 

  「バチーン」という音が 耳に響き 瞬間 記憶が遠のいた

 気がつくと 先生は 顔を手で覆って 泣いている

 「ごめんなさい」 

 頬を押さえて 泣きながら 謝っていると タカさんが

 「すみません 私が 勝手に 誘ったんです」

 と 頭を下げ続けていた

                                 (続く)

 

 

 

 

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