やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.92   「‥夢の風景  ~夢見た町」

「~夢見た町」

 

 九州の真ん中あたり 高い山々に囲まれ 陽は遅く上がり 早く沈む

 峻険な山地に 耕せる田畑は僅か 多くが外へ働きに出る 貧しさが 当たり前の村

 あの山の向こうに 新しい土地 新しい町 そこには たくさんの夢があり

 叶うものだ と 思っていた 

 れから 半世紀余りが過ぎて 濃く  薄く いくつもの記憶が 浮かび来る 

 酸いも甘いも 嚙み分けたかどうかは わからない 

 ただ がむしゃらに 前を向いて 山向こうの町をめざし 歩いた日々

 

    よく 夢に見る町があった それは ありそうで なさそうな 色なる町

 年を重ねて その夢が いつの間にか うつつのように 近づいてくる 

 

 春には若葉が波打ち 秋には鮮やかに色絨毯 なだらかな  雑木林の山々が

 四方を囲み その裾野には 幾重もの桜並木が 広がって 

 真中に一本の 美しい川が流れていく 

 町は 朝早く 霧が立ち込め やがて朝日が 東から少しづつ 家々を

 浮かび上がらせ その頃には 子供たちの 若やいだ声が あちら こちららから 

 聞こえ来て それから 光彩陸離のときが 町中を覆い尽くし 

 昼から夕にかけては 車の音さえ 遠慮するかのように 静かな時間の 独り占め

 柔らかな日差しが 山の向こうに 沈む頃 人々は ゆっくりと わが家へ運ぶ

 誰もが 穏やかでやさしく 争いのない 平穏が 約束されている

 夢見た その町の光景は 目覚めて しばし 幸せなときを 届けてくれた

 

 町の南側 桜並木のすぐ横に 一段高い区画がある 境には 一目で分かるよう  

 白い雪椿が植えられ その中には 整然と 数軒の家が 並んでいる 

 目立たぬように 堀に囲まれて佇む 小さな藁ぶき屋根の家 

 隅々まで きちんと整理され 年季が入った 柱や壁は 黒光りし

 入口の引戸は 赤みがかった黄色 明るい黄土色で そこだけ 真新しく

 左側には 縁側が続き 真ん中あたりに 僕が 座り 見上げている

 そして なぜか 仰ぐ空は いつも 秋の青 一色だった

 赤や黄色の 落葉が 青に染まりながら 舞っている 風景

 何をするでもなし 時が刻まれていくだけの その静寂が 好きだったのだろう

 

 そして 今 僕は 離れたがっていた ふるさとの あの村へ 

 帰ろうかな と 思うようになっている

 若い頃は 貧しさの記憶にある ふるさとを 遠ざけていたけれど

 いつしか ふるさと と 夢見た町が 重なってきた

 どちらも 持っているものは 静けさだけ  だが

 残された時間が 少なくなるとき それは 何物にも代えがたい  宝物になる

 

 ふるさとに続く道は 夢見た町に続いている と 

    気づかされてきた この頃‥‥

 

 

 

 

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