やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.76 「‥夢の風景  ~写真館の母 」

 

  「~写真館の母  

   

    当時 生まれた集落から いくつもの山を越えて 2時間以上 歩かなければらない

    小学生の足なら その倍近くはかかったに違いない その町

    神社からまっすぐ降りた 大きな通り  薬局とスーパーの間を入って 少し歩く坂道 

    角地に 写真館は あった

    

    20歳を過ぎて そこを訪れたことがある

    らしくない 小さな瓦葺きの民家で 油断すれば 通り過ぎてしまいそう

    かろうじて 古い看板と 木製の引き戸の横 ガラスで覆われた 狭い空間 

    何枚もの 写真が  無造作に貼られており 写真屋とわかる

    写真の多くは 七五三や 結婚式など 家族で撮ったもの 

    色褪せた 軍服姿の写真も 貼られていた

 

    だが その中に 母の写真は なかった

    すでに40年ほど経っており   当時10歳になるか ならないかの母が 

    そこにいるはずが なかったが それでも 写真の母に 逢いたかった

 

    物心ついた頃  母や叔父が話していたことが 記憶に焼き付いていた

    集落の人が 写真館を訪れたら 母の写真が 飾ってあり

    それは 本当は 母親に背負われてもいいほどの 女の子が 

    小さな子を背負っている写真で その背負っている子が 母に似ていたらしい

    9人兄弟の一番上だった母は 家計を助けるために 10歳に満たない頃

    その町の 旅館に奉公していた と いう

    誰かが 何かの気分で 母の子守り姿を 撮影し 飾ったのかも知れなかった

    

    祖母は 母と行くたびに 「あんたばかりに 苦労かけて‥」

    涙声で 母をいたわっていた

    いつもは 厳しい祖父や叔父も  母にだけは とてもやさしく

    母も 居心地が良かったと思う 

    祖父母の傍にいる時の母は 間違いなく 幸せな 笑顔だった

 

    祖父母や兄弟を見送り 長生きした母

    この春 別れを告げる間もなく 静かに旅立った

    あの写真のことは 最後まで聞けなかったが 聞かなくて良かった と 思っている

    10歳に満たない 女の子の奉公が 幸せであろうはずがないのだから

    今 また 祖父母と一緒になって あの頃のような幸せな顔で  笑っていて欲しい 

 

 

        

         【 母も 疲れた足を休めたであろう 町に注ぐ渓谷 】    

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