やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.54  「‥夢の風景 ~月夜と おじいさん」

 

 「~月夜と おじいさん」

 

   満月の夜で 明るかった

   田んぼには 水が張られ 小さな稲の苗が並んでいたから 5月頃だったろう

   お風呂に入り 夕食もすんで 子供たちは寝る時 なのに

   僕は ひとり あぜ道に立っている

 

   寝間着姿に下駄を履き 片手には 懐中電灯を 持ち

   もう一方の手には 祖母の写真があった

 

   何日か前の夜 夢を見た 

   やはり 月夜の あぜ道  

   前に立った 丸顔の小さなおじいさんは 僕の祖父だと 名乗り 

   今度逢う時 「祖母の写真を持って来て欲しい」  と しわがれ声

   「次の満月の夜に」 と付け加え 僕は 黙ってうなずく

 

           今夜が その約束の夜だった

   田舎の夜はまだ寒く 足元から 冷気が襲ってくる 

   ブルッと 震えた瞬間 蛙の声が止み‥

   

   目の前に あの夢のあと 遺影で見た祖父が 立っていた

   黙って 白黒に霞む写真を渡す それは 可愛がってくれた 僕と

   祖母の 温泉町での写真

   祖母も僕も なぜか かしこまっている

   

   

   「ありがとう」‥‥  

   「ばあさんには ずっと 辛い思いばかり させたから‥

    こっち来たら まず 頭下げて 詫びいれて と思ってな」

   「年取って 記憶もあいまいになって ばあさんの顔も 忘れちまった ようで 

    だけど これで大丈夫 真っ先にばあさんを迎えられる‥」といって 笑った

 

   「ばあちゃん そっち行くの?」

   「近いうちにな そろそろ 灯りも消えるころだ」

   「でも まだ元気だよ」

   「人間 それぞれに 逝くときは 決まっているんだ 定めって やつかな」

   「‥‥」

   「ばあさん孝行しておけよ」

   僕の頭を撫でて くるりと振り向き 月夜の闇へ 消えていった

 

   それから 僕は 祖母を もっともっと 大切にした 

   そして その夏のある朝 祖母は 静かに祖父の元へいった

   あの月夜のことは 夢かうつつか よくわからない

   だけど 祖母とふたりで写った写真は 見つからなかった

   

   祖父は 何と 謝ったのだろう 

   祖母は 何と 応えたのだろう

   でも 祖父は あれから一度も 夢に出てこない だから

   上手くいったに‥  違いない 

   ふたり 仲良く 座って 笑い話 している 

 

 

   月夜の田んぼと あぜ道と 薄暗い 懐中電灯の灯り 

   そうした風景を 想い描いては あの頃に還っていく‥‥ 

 

     

 

     

 

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