やす君のひとり言

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~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.48  「‥夢の風景  ~理髪店のタカさん 2/2」

 

 「‥夢の風景 ~理髪店のタカさん   2/2」

 

    当時 村は林業が盛んで 毎日のように 木材を満載した トラックが走っており

 狭い砂利道路には 危険がいっぱいだった

 何かあったのかもしれない と いなくなった 僕を探して

 先生は 不安を抱えながら 戻ってきたのだ

 

 それが 理髪店で漫画を読んでいれば 怒られて当然で

 タカさんは それから 何度も 頭を下げ続け 先生は

 「わかりました」の 一言のあと 涙目で

 「戻るわよ」と 僕の手を引っ張って 店を出る

 振り返ると タカさんが 軽く手を振って バイバイしていた

 

 次の朝 タカさんは 学校に来て また 先生に謝り 

 校長先生にも 頭を下げていたと 後で聞いた

  

 そんなことがあって 僕は もっとタカさんが 好きになり

 学校が終わると 必ず 寄り道一号店に行って タカさんとすごした

 漫画本を 読むことと 同じくらい 

 見たこともない 華やかな 街での 自慢話をしてくれる 

 タカさん と いることが 楽しかったのだ 

 

 そして 中学1年の夏 

    タカさんが 消えた‥

 その日の朝は いつもの 光景とは 少しだけ 違っていて

 サインポ-ルは 止まっており カーテンは 閉まったままで

 そして 店主が いなくなっていた

  独りで 近くに親せきも 無かったから 誰も 行先は知らなかった

 また いろんな噂が立ったが やがて 話題や視界から消えていき

 それから 2年足らずで その借家は壊された

 ‥‥

 二十歳を過ぎたころの 夏の昼下がり 容赦なく太陽が降り注ぐ その日

 タカさんが 昔住んでいたという H市の交差点で 僕は 彼に出逢った

 それは 小学校の頃 話しに聞いていた 街のタカさんに 間違いなく

 白いスーツの上下に 茶色い靴を履き 扇子で しきりに 顔を扇ぐ

 隣には 小さい女性が並び 横目で見ながら やさしく笑っている

   その人は タカさんがいなくなって‥  

 それから しばらくして 村から出て行った人だった

 

 交差点を 渡ってくる タカさんは 噂のとおり 肩で風を切り

 街を占領したかのように 大股で近づいくる

 僕の視線を捉えて 一瞬 驚いた表情を見せたが すぐに

 あの なつかしい笑顔を魅せると すれ違いざまに 手をあげ

 金色の腕輪が 「元気か?」 のように 揺れ動き  

 それは 後ろ姿が 人ごみに紛れても 夏の陽射しに キラキラと 輝き続け

 やっぱり タカさんには 街の風景が似合う と 思った

 

 あれから 半世紀近くになる 

 こちらの世界か あちらの世界か わからないが

 どちらにせよ 間違いなく 

 タカさんは 今も 肩で風を切って 歩いている

 

 

    【タカさん また交差点で 出逢えますか? 】

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