やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.49 「‥夢の風景  ~赤いコ-トのMさん 1/3」

 

 「‥夢の風景 ~赤いコートのMさん  1/3」

 

  

        小学6年生の春 卒業記念行事として 同級生で 遠足に行った  

 

  舗装されていない 狭い道を 一列になって 歩いて行くのだが

  唸るような音を立てて 時折り通る トラックは 

  砂利を蹴散らし 埃を巻き上げる 

  その度に 僕たちは 道路に背を向けて 避難した

   

  その日は 晴れ渡っており 道の上や下に へばりつくような 

  小さな畑たちの周りには 菜の花が咲き

  僅かに作られている 田んぼにも スミレの花模様が 広がっている

  土地のほとんどを山々が占める 村は 多くが林業に携わり

  少ない田畑から採れる農作物は 家族が食べるほど だったと 思う 

 

  途中 道路は大きくカ-ブしており それが曲がり終わる ころ

  道の上 竹藪が生い茂る傍に 平屋の家があった

  庭には 大きな椿の木がそびえ 早春の頃には 道路一面 白い花を散らして

  地域の人たちは 「椿ん家(つばきんち)」と 呼んでおり

  それがMさんの家だった 

  

  Mさんの 苗字は 村で 一軒だけ 

  年の離れた兄さんは すでに村を出ており 父母との3人暮らしで

  父さんは 道路の補修を請け負い 毎日のように 村内のどこかで

  仕事をしていた

  

  単車の荷台やあちこちに 用具を括り付け 器用に運転する姿や 

  晴れの日も 雨の日も 働く姿を 何度も見ていた

  

   その日の 道すがら お父さんに 出逢った

  小さい体つきで 頭にタオルを巻き付け ザクッ ザクッ と

  一心不乱の 腰つきで 車の轍の跡を 直していた 

 

  先生の 「おはようございます」に続き 同級生たちが声を出し

  父さんも 汗と土にまみれた 笑顔で挨拶を交わした

  その前を過ぎると 笑い声が聞こえ Mさんに視線を移している 子もいた

  

  Mさんは 黙って 下を向き 唇を閉じたまま 足早に 父さんの前を

  横切り しばらくは 顔を上げなかった

 

  Mさんは 泣き笑いのような表情で 僕に 視線を向け

  僕は とっさに 笑った

  そのときは そうすることしか 思い浮かばなかったのだ

                               (続く)  

 

  

 

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