回顧録 no.29 「‥‥寒い国で出逢った通訳のIさん 4/5 」
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「‥‥寒い国で出逢った通訳のIさん 4/5 」
この古いプロペラ機 時間には正確で 遅れることなく グダニスクの空港についた
兵士が 真っ先に降りていき タラップの下で 待ち構えている
一面の雪と 思ったら うっすらと 積んでいるだけ
心なしか ワルシャワより 暖かい感覚を 覚える
Iさんの顔色も 良くなった ような
兵士の前で Iさんがひとことふたこと
若い兵士が ゆっくりと 答えている
‥‥なんて 言ったんですか
ご苦労さまです と ‥‥
‥‥彼は なんと
彼 護衛で乗ったそうです
‥‥誰の護衛
「連帯」訪問団 と 言っています わたしたちの 他に 誰かいるのか? ‥‥
‥‥えっ!
空港から 1時間ほど タクシーは 古い街中に入り 小さな雑居ビルに辿り着いた
‥‥ここです
6月の選挙で 圧倒的国民の支持を得て勝利した 「連帯」のオフィスとは
思えないほど こじんまりしており 迎えてくれた 広報の責任者だという
若者は 柔和な表情で
‥‥ほかの方々は?
事前連絡していなかったことを詫び 団長以下は 緊急の用事で と 弁解する
‥‥あいにく ワレサ議長は 今 不在です
時の人には 逢えなかったが 彼と 組織の責任者は
抑圧されてきた ポ-ランド民衆の歴史や 新しい時代に向かうための 連帯の役割
求める道など 彼らが 命を賭けて 創ってきた成果と
やがて迎えるであろう この国の未来を 熱意ある表情で 語ってくる
2時間近くにわたり 質疑や意見の 飛び交う中 Iさんは
通訳として ポ-ランド国民として ひとつひとつの言葉に
想いを込めて 彼らの答を訳し こちらの問いを 伝えてくれた
彼女もまた この国が大きく変わることを 心から待ち望んでいる
そう 思った
瞬く間に 約束した時間は訪れ 心ばかりのお礼を渡し とんぼ返りで 空港へ
ようやく 雪の止んだ 空港には
あの 古いプロペラ機と
あの 若い兵士が 仲良く 待っていてくれた
(続く)