やす君のひとり言

やす君の情景

~大分市竹中やすらぎ霊園~

回顧録 no.80 「‥夢の風景 ~Mさん と ホタル」

 

   「‥Mさん と ホタル」

 

    20の頃 住んでいた町には 澄んだ水を湛えた川が 蛇行しながら 横断しており 

    車で20~30分ほど走った その川の上流に 石灰石の白と清水が 織りなす 

    美しい渓谷があって 夏には 多くの家族の にぎわいがあった

    

    渓谷のすぐ先 古い石橋が架かる そのたもとに 桜の木が迎える 

    酒屋さんがあり 気さくでやさしい 高齢の夫婦が 営んでいた

    時折 仕事にかこつけては 昼食時に 弁当持参で訪れ 丸いメガネ越しの 

    Mさんの 話を聞くのが 好きだった 

    同い年 大学生の息子がいることもあって とても可愛がってくれ 歴史の先生らしく

    話題は豊富で いつも 新しい発見で驚き  時を忘れて  傍にお母さんの苦笑い

 

    やがて その町を離れ 30に近い 夏に入る頃  思い立って 訪れた

    以前より 少し寂れた庭には 一台の車が居座り その中は 人が寛げるように

    改造され ソファや小さな机や椅子 きちんと整理された本などが 窓越しに見える

    10年近い歳月は お母さんの腰を 少し曲がらせ メガネが必要になっていた

    そして‥‥ 

    そこに Mさんの 気配は なかった 

 

    認知症が 少しずつ進行し やがて ひとりで家にいることが できないようになり

    お母さんが 外出するときは Mさんを 庭の車に乗せ 鍵を掛けていた そうな

    そのための 車だった

    だが 体は 次第に弱くなっていき 他の病気を 抱えていたこともあって 

    入院して間もなく 眠るように 彼岸にわたり 今年 初盆を迎えるという

 

    壇の前で微笑む Mさんは あの頃と変わらぬ やさしさを湛え

    お母さんが見せてくれた写真 玄関前で 僕と笑っている メガネの似合うMさん

    涙で 霞んだその先に 石橋が見えて いつの夏だったか そこで一緒に

    ホタルを眺めた 記憶が 蘇ってくる

    欄干に腰を置き タバコをくゆらせ 飛び交う黄色い光を 黙って追っていた Mさん

    

    夕やみ迫る頃 同じ場所に 腰を下ろし ホタルを待つ

    車の中から Mさんが見た ホタルは 何色に見えたのだろう と 思いながら

    そして‥‥

    もしかしたら あの中に Mさんホタルが いるかも知れない と 思いながら

    「父さん 来たよ」 と‥ 

    ひときわ輝く ホタルに 挨拶する   

    

  

                

             

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